豊橋市にいたころ、ある運送会社の経営者に食事に誘われました。その九四歳の経営者は、BMWの運転席にひょいと乗り込むと、市電の線路と車線が複雑に交錯する市街を緩急つけて走り抜けていきます。そのハンドルさばきの巧みさに、舌を巻くばかりでした。
「ハンドルを握るということは、自分を含め人の命を預かることだ」。長年、プロドライバーを務めた経営者の言葉が胸に響きました。
昨今、高齢者の運転を規制する動きが顕著です。これだけ運転ミスによる悲惨な事故が相次ぐ一方、免許返納が進まない状況ではやむを得ないでしょう。義理の父は喜寿で免許を返納しました。私自身も、マニュアル車の運転が難しくなったら返納を考えています。
この問題は返納や規制だけでは片付きません。車は生活に欠かせない足だからです。ただ人の命を預かっている事実も、忘れてはならないと思います。返納はいずれ誰もが通る道。気持ちよく運転を卒業したいものです。