「たとえ生きていても、母親と話せない気持ちが分かるの」。

妻の問いかけに、いまだに返す言葉を見付けられずにいます。

 妻の母親が「アルツハイマー型認知症」と診断されてから、病気はあっという間に進行しました。欠かさず目を通していた新聞に興味をなくし、いつしか会話は一方通行となり、毎日2時間の電話も終わりを告げた。

 施設に入った母親に会うため、名古屋から通いました。母親は自分の娘として認識はできるようだが、会話が成立しない。ひたすら意味不明なやりとりと、無言の時間が流れる。それでも親子なら、同じ時間を過ごしたとい話す気持ちは、ごく自然でしょう。しかし、コロナ禍でその機会すら失ってしまいました。

 誰しもが、認知症になる可能性をはらんでいます。人間は総力を挙げ、新型コロナウイルスのワクチンを開発しました。誰もが最後まで尊厳ある人生を全うできるよう、一刻も早い認知症治療薬の開発が待たれます。